助成先訪問 No.003
子ども食堂と学習室がセットに 「一般社団法人COCOROごはん」

訪問日 2023年11月9日

住宅地の中にある馬場自治会館と、隣接する馬場ふれあい館が「一般社団法人COCOROごはん」の学習支援の場です。中学生は馬場自治会館の2階で学習しています。21畳の大きな和室の壁に沿って長机が並び、大きく空いた中央部で、中学生と大学生が車座になって定期試験の勉強をしていました。中には寝そべって教材をのぞき込む子もいます。
翌週に迫った定期試験では、音楽や美術も手を抜けません。近くの区立中では手をデッサンする課題が出るため、自分の手を見つめて黙々と鉛筆を動かす姿も。どの子もくつろいでいて、アットホームな空気が流れています。午後6時を過ぎると階下のキッチンから鮭ご飯のいい匂いが上がってきます。

きっかけは滝野川子ども食堂

当会が2016年に立ち上げた滝野川子ども食堂で、勉強に強い苦手意識を持つ子や不登校気味な子と出会いました。何か力になりたいと思っていたところ、2017年に北区社会福祉協議会との共同運営で滝野川学習支援教室を始めました。しかし、この事業は、区主管のため募集対象が限られていました。また、対象家庭であっても書類申請や三者面談などの手続きが苦手などの理由で応募に至らないケースがありました。そこで2018年、当会独自の事業“COCORO学習室”を立ち上げました。2019年にはコロナ禍となり、学校閉鎖の事態にもなりました。地域の人間関係はますます希薄になるなか、当会の子ども食堂と学習室の事業は、地域の大人と子どもが出会う場として重要な役割を持ちました。

大学生による自主的な運営

滝野川学習支援教室での学習風景

地域で子育て・子育ちを

ワンオペ、孤食、不登校、成績不振、ひとり親、多子、外国籍など、様々な状況にある地域の子どもたちを対象に活動をしています。学校、家庭だけで子どもを育てることは難しいのです。また、行政の公的支援は一律的で限界があります。
現在、子ども食堂と学習室がセットになった活動を学期中は週1回、夏休みなど長期休暇中の平日は毎日行っています。宿題や勉強でつまずいたところを地域の教員経験者や大学生が教えます。このほか中学校の定期テスト前10日間ほど、自習室事業を行っています。学習の後には軽食が出ます。ご飯が楽しみで来る子どももいます。ほかに隔週のmini子ども食堂、小中学生に区が支給しているタブレットを使ってITスキルを教える「プログラミング教室」なども行っています。現在、高校生1人、中学生7〜9人、小学生4〜8人が参加しています。

COCORO自習室(学習中)

夏休みのCOCORO学習室

助成金で購入したWiFi

左より、池上理事長(樫の芽会)・我妻代表・山北事務局長(樫の芽会)

温かい食事と会話をきっかけにしてつながる

保護者とは年1回必ず面談をして家庭の事情を把握しながら、学校とも協力して運営しています。食事が出るということが、保護者や子どもたちの警戒心を解き、ぐっと距離を近づける、といいます。卒業生が大学に進学し、教える側に回るなど、つながりが長く続いているのも特徴です。我妻さんは「私たちは近所のご飯を食べさせてくれるおばちゃん。これから先も私たち地域の大人が伴走し、子どもたちをここで育てていくつもりです」と話しました。

宿題・勉強が終わると、お待ちかねのご飯!

調理スタッフとして子どもに伴走:鈴木芳子様

調理責任者・副代表:榎本文子様

インタビュー

我妻澄江(あがつま・すみえ)さんインタビュー

保護司、子ども劇場、男女共同参画の活動の集大成
代表理事 我妻澄江(あがつま・すみえ)さんインタビュー

子どものことに関心があり、23年間保護司を、30年間子ども劇場の活動をやってきました。2016年に東京都北区で初めての子ども食堂ができた時に、見学に行って、「あ、いいな」と思いました。若いお母さんと子育てが終わったお母さんの協働があり、参加の敷居も低かった。滝野川在住の保護司、子ども劇場、男女共同参画などの活動仲間を誘って、9人で始めました。COCORO学習室は、この子ども食堂に通う、経済的困窮や虐待など困難な状況にある子どもたちに声をかけて、さしあたって高校受験まで持っていくことを目標としています。
中学校の定期試験前は1対1で教えます。小さい時から成功体験を積んでいないと学習意欲も湧いてこない。テストの点数が一桁だった子も、10点、30点、平均点と上がっていくことで少しずつ「高校受験がんばろう」という気持ちになります。高校に入った後も中退しないように、サポートを続ける子もいます。
これまでに数人、スタッフの自宅で子どもを預かる「宿泊支援」も提供しました。親の入院や虐待で一時保護所に行くことになると、子どもは学校や友達から切り離されてしまいます。地域の中に親元からちょっと避難できるところがあればいいな、と児童相談所、保護者、学校に連絡し、子どもを預かることにしました。
コロナ禍でも子ども食堂ではお弁当を配り、学習室も感染対策を取りながらすぐに再開しました。中には「一週間ぶりに家の外に出た」という子どももいました。「ここに子ども食堂があって良かった」とみんな言っていました。
ここに来れば、ご飯を食べさせてくれるという信頼関係は強いです。保護者が私たちを信頼してくれれば、子どもを預かることができる。そして大学生や大人のスタッフと出会うことで子どもたちは親以外のロールモデルを見つけていけます。子どもたちは小さな失敗を重ねながら、自分の可能性を広げていける。「失敗してもやり直すことができる権利」を認め、寛容な心で、地域に住む大人として、伴走していきたいです。

ごはん食べて、遊んで、その土台の上に学習が成り立つ
学生講師 濵田想(はまだ・こころ)さんインタビュー

濵田想(はまだ・こころ)さんインタビュー

近くの大正大の大学院で臨床心理学を専攻しています。
大学2年からはコロナ禍でオンライン授業となり、他の人と話す機会もなくなりました。心理学につながるような活動はないかと探していた時、ホームページで子ども食堂を知り、応募しました。
COCORO学習室、自習室で小中学生の学習をみています。ほとんどの子が学習に苦手意識があります。褒められた経験が乏しい子や自分なんてどうせできないと後ろ向きになっている子も多くいます。そういう子には、学習の中でも普段の生活のなかでもできていることや良いところに着目し、肯定的に伝えることを心がけています。学校に行っていない子には、「ご飯を食べに来るだけでもいいし、お話をしにくるだけでもいいよ」と伝えています。ご飯を食べて、遊んで、子どもの居場所としての機能が大きい。それが土台にあって初めて学習が成り立つと思います。この子にとってどういう言葉がけや学習の仕方が一番いいのかということを日々考えながら子どもたちと接しています。
学部の授業はほとんど座学でしたが、ここに来ると学んだことの具体的なイメージがわいてきます。言ったことを聞いてくれなかったり、反発したりする子にどういうアプローチをしたらいいか、スタッフ同士で情報共有をしながら関わり方を模索していきます。「困った子は困っている子」という言葉が、実態を伴って見えてきます。
子どもたちは2週間も会わないとものすごく成長する。その成長を目の当たりにできるのがやりがいにつながっています。ここでの経験を生かし、将来は罪を犯した少年や成人の心理支援などにも取り組みたいです。

一般社団法人COCOROごはん

創 設
2016年11月(前身の滝野川子ども食堂 活動開始時)
開催場所
馬場自治会館・馬場ふれあい館(東京都北区滝野川2丁目)
開催日
COCORO学習室:1回/週 + 長期休暇中平日毎日
COCORO自習室:定期テスト前1週間 ×4回/年
mini子ども食堂:1回/隔週、他(本助成金の非対象活動)にて多数回
対 象
滝野川子ども食堂及び滝野川学習支援教室(北区社会福祉協議会との共同運営)等の活動より、支援が必要と思われた子ども達を自主的に声掛けしたり、地域の学校の養護教諭から紹介された子ども達(高校生・中学生10数名、他小学生多数)

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