助成先訪問 No.011
「子どもたちのロールモデルとして、いろいろな距離感の大人が関わる」
児童養護施設での一対一の学習支援
NPO法人セイブアライフ

訪問日 2025年10月25日

保護者のいない子どもや、家庭での養育が難しい子どもたちを、家庭に代わる生活の場で育てる児童養護施設。NPO法人「セイブアライフ」(宮城県蔵王町)は東北5県で、そうした施設に大学生を派遣し、入所している子どもたちに寄り添い型の学習支援を行っています。

カトリック系の「仙台天使園」の本園(仙台市太白区)と、一般住宅を活用した小ホーム「かつら」(地域小規模児童養護施設かつら 同市泉区)を訪ね、お話を伺いました。

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支援している児童養護施設のひとつ「仙台天使園」(同園HPより)

マンツーマンの学習支援で、不得意科目の克服へ

仙台天使園は郊外にある3階建ての施設。18歳までの子ども28人(取材時)が、寝食をともにしています。施設は5〜6人ずつの五つのユニットに分かれ、一つのユニットに個室とリビング、バス、トイレが付いています。1階には談話室や面談室があり、セイブアライフから派遣された大学生が土曜日の午前、中学生に勉強を教えています。

東北大2年の川村亜嬉(あき)さんが、中3の男子生徒に数学を教えていました。施設には親元から緊急避難する一時保護期間など、家庭の混乱期に通学が途絶えてしまう子、そのまま不登校になってしまう子も少なくありません。学習過程のどこが抜けているのかを聞き取りながら、知識の「空白」を埋めていく。まさに一人ひとりニーズが異なるのが特徴で、マンツーマンの学習支援が力を発揮します。

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家庭的で地域に開かれた環境での養育を目指して

国がより家庭的な養育を推進しているため、仙台天使園も地域小規模児童養護施設を四つ開設しています。民間の住宅を借り上げ、家庭生活により近い形で子どもたちを育てています。「かつら」は住宅地の中にある2階建ての一軒家。小2〜中1までの男女5人が暮らしています。日勤の職員5人と夜勤専従職員が調理や掃除、戸締まりなどを行っています。ホーム長の小野寺美穂さんは「うちの子どもたちは、よく食べよく寝てよく遊ぶ。あとは学習面だけ」と微笑みました。多くの子どもたちは家庭の団らんを知りません。ホームに来て、メロンの種や魚の骨の取り方を初めて知ったという子もいます。小野寺さんは「あ、ごま油の香りがする」という生活感のある言葉に、子どもたちの成長を感じるそうです。子どもたちと一緒に地区の清掃活動にも積極的に参加し、より家庭的で地域に開かれた環境での養育を目指しています。

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子ども達を暖かく見守る 中野職員、小野寺ホーム長(左より)

大学生ボランティアは、子供たちの身近な「ロールモデル」

学習支援は2階にある子どもたちの個室で行います。東北大大学院博士過程の朴依眞(パク・ウジン)さんは、中1の女子を週1回、教えています。基本は数学か英語。学校の宿題があるときや定期試験の前後は、臨機応変に他の科目を教えることもあります。

この日はグラフの書き方。朴さんは学習机の横に椅子を置いて座り、一つのノートを一緒にのぞき込み、手を添えながら教えていました。

「X軸とY軸を書いて、点と点を結ぶと直線になるよね」「定規は長くまっすぐ線を引くといいよ」

女子生徒は、机の前にハングルの表を貼っています。韓国アイドルとメイクが好き。依眞さんは、憧れのお姉さんです。人生の少し先を行くロールモデルの姿を見せることも、この学習支援の大切な役割です。

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インタビュー

代表理事・加藤雪彦(かとう・ゆきひこ)さん(68)インタビュー写真

子どもたちに自分が大切にされたという
記憶を残したい
代表理事・加藤雪彦(かとう・ゆきひこ)さん(68)

東北大学卒業後(のちに博士課程後期修了)、高校の地理の教員になりました。記者になりたくて新聞社を受験したが落ち、恩師に「金なし職なし女なし」と相談したら、「君には国籍と健康がある、これ以上の条件はない」と励まされました。そのどちらもないところに行こうと、1980年代半ば、内戦中のカンボジアの難民キャンプに行きました。クメール・ルージュによる内戦の後、ベトナムとの戦争をしていたころです。爆撃を受け「武器で平和は作れない」とつくづく実感しました。

その後帰国して、高校の世界史の教師になりました。退職後、若い時に難民キャンプで見た学習の機会に恵まれない子どもたちの姿を思い出し、震災復興支援NPOを改組して子どもの人権NPOとし、代表理事に就きました。2019年から、ナイロビやカンボジアの孤児院、日本の児童養護施設などで学習を支援するようになりました。

知人で、かつて仙台白百合中学・高校の教頭をしていた土倉相(つちくら おさむ)さんに相談、宮城教育大学に公募、ボランティア4人からのスタートでした。原資は河北新報の基金、年10万円。自治体の塾代補助が少ない中高生に、重点に置きました。

仙台天使園 土倉園長イメージ写真

仙台天使園 土倉園長

コロナ禍と相前後して、学校に行けていない不登校の子が増えています。また児童養護施設の場合、一時保護を経験した子どもも少なくないのですが、保護者と離して施設にいる期間は、在籍校に通学することはできません。施設がある学区に仮入学することもできますが、2カ月から、長い時には1年もの学習のブランクが生じてしまいます。

また、発達に課題があり、「育てにくい子」として保護者が養育をあきらめてしまうケースもあります。支援学級の半分以上が養護施設の子どもという学校もあります。

こうした子どもたちが学校についていけなくなる前に、学習支援をつけることは重要です。

施設の子どもは社会や大人と接することが少ない。職員以外に、学生たちのような色々な距離感の大人と関わってほしい。将来の自分を思い描くロールモデルとしても大切です。

集団が対象の学習塾とは違い、1対1の形式で学習支援を行います。子どもたちがお兄ちゃん、お姉ちゃんになつくことで「自分が大切にされた」という記憶が残る。一方、学生は自分の研究以外に、貧困や虐待など世の中のイシューに触れて、一流の市民になってふるさとに帰る。両者にとって、大きな財産になります。

ボランティアは現在27人にふくらみました。学生課を通して呼びかけていますが、最近は「児童養護施設」「ボランティア」で検索してくる子が多いです。支援の拠点も福島県会津若松市、山形県鶴岡市、岩手県大船渡市と4カ所に広がった。秋田市でも12月から活動を始める予定です。

今後はボランティアのノウハウや経験の共有も目指します。また、学生の多い仙台市の特性を生かし、地域共創と学生の郊外活動を推進する「学徒仙台こども支援センター」の立ち上げも構想しています。

NPO法人セイブアライフイメージ写真5
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写真左:学生ボランティア1期生(撮影 2019年5月)

写真右:同じ場所で、左から土倉園長、加藤代表、川村さん、朴さん、樫の芽会・村野選考委員長、山北常務理事

子どもたちのバックグラウンドはあえてきかず、
学習支援に徹しています
学生ボランティア 朴依眞(ぱく・うじん)さん(27)

学生ボランティア 朴依眞(ぱく・うじん)さん(27) 画像

2023年5月からセイブアライフの学習支援ボランティアを始めました。これまで中3の男の子、中1の女の子を教えました。

定期試験の結果を受けて、点数が取れない教科を重点的に教えていますが、普段は数学がメイン。中3の子は高校入試のレベルに達するように全科目をみるそうです。

幼いころからボランティア活動をしてきました。

「子どものころは老人ホームや障がい者施設に行くことが多かったのですが、大学に入ってからは児童養護施設にも興味がわいて、インターネットで検索して、こちらの団体を見つけました」

児童養護施設には養育放棄や虐待を受けた子もいます。

「こちらからは子どものバックグラウンドは具体的にはきかない。全く触れないようにしています。子どもが自分から家族の話をするときは聴くだけにして、質問はしません」

打ち解けるには、担当の子どもが何が好きかをキャッチすること。「メイクが好き、アイドルが好きと訊いて、家に帰って色々調べて、次に会う時の話題を予習しておきます」

あまり勉強したくない、という子には雑談や、イエスノー形式で答えられる問題から入り、徐々にテンションを上げていくといいます。

「子どもたちは素直。接していると私もがんばろうって思える」

試行錯誤と工夫で、子どもの力を引き出す
学生ボランティア 川村亜嬉(かわむら・あき)さん(19)

学生ボランティア 川村亜嬉(かわむら・あき)さん(19)インタビュー画像

川村亜嬉さんは東北大医学部看護学専攻の2年生。高校3年生の11月に東北大の早期入試で合格し、入学までの4ヶ月間に色々なことに挑戦してみたいとインターネットで調べ、ボランティアを始めました。

「ドラマに出てくる児童養護施設って、実際はどんなところなんだろうという興味から出発しました」

最初は里親に住宅を提供しているNPO法人「子どもの村東北」で小5の男の子を教えました。

大学入学後はセイブアライフの活動で、隔週に「仙台天使園」を訪れて主に数学を教えています。

難しいのは子どもによって、在籍校に行けていない期間があり、その間の単元が全くわからなくなっていること。

「どこまで遡って、どこから手をつけようかと、その子にあった内容を考えるのが大変。教科書と学校のワークブックを頼りに、どこまでできているかを確認しながら進めています」

学習塾でも講師のアルバイトをしています。学習支援ボランティアとの最大の違いは、学校に行っているかどうかだといいます。

「一時保護以外に、不登校の子も多い。ブランクを埋めようと試行錯誤を続けるうちに、臨機応変にその子にあった力をつけられるようになってきました」と手応えを感じています。

NPO法人セイブアライフ

創 立
2013年2月(学習支援事業は2018年〜)
代表理事
小野恵・加藤雪彦
開催場所・日時
  • 仙台天使園・本園(仙台市太白区)、地域小規模児童養護施設「さくら」「みずき」「かつら」など子供1人月2回、土曜日・日曜日に2時間ほど
  • 岩手県大船渡市「大洋学園」、山形県鶴岡市「七窪思恩園」、福島県会津若松市「会津児童園」、秋田県秋田市「感恩講児童保育院」でも活動
  • 年1回、カンボジアの孤児院の副代表岩田亮子(現地在住)さんの報告会を仙台で開催また、学生さんと共に、毎年現地スタディツアーも実施中
対 象
児童養護施設の小・中・高校生 34名(但し、本助成金の対象は中・高校生のみ)
学習支援員
東北大、東北福祉大、宮城教育大、宮城学院大、仙台白百合女子大、県立会津大学短期大学部などの学生、社会人ボランティア27人が登録、ほか退職教員ら5人

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