助成先訪問 No.012
外国ルーツの子どもたちの教育を官民連携で支援 愛知県県民文化局・多文化共生推進室

訪問日 2025年10月6日

34万5,900人。愛知県に暮らす外国人住民の数です。全国では東京、大阪に次いで多く、県人口に占める割合は4.64%にのぼります。永住希望の割合が高いのが特徴で、日本で生まれ、学び、やがて働くことになる2世、3世の子どもたちの日本語習得は待ったなしの課題です。樫の芽会の助成事業にも、外国ルーツの子ども達への学習支援をメインとした応募も少なくありません。どんな課題があり、支援が必要なのか、県民文化局・社会活動推進課の多文化共生推進室にお話を伺いました。

愛知県県民文化局・多文化共生推進室イメージ写真1

愛知県庁西庁舎(愛知県HPより)

「新たな住民」外国籍住民像の変化・多様化

応対してくださったのは、主査で日本語教育推進グループ班長の林大貴さん(45)と、同グループの地域日本語教育総括コーディネーターの松村月音さん(34)。2人とも民間企業やNPOでの勤務経験を経て、県庁に就職。現在のポストに就いたのは昨年4月からだそうです。

愛知県県民文化局・多文化共生推進室イメージ写真2

左より、多文化共生推進室・松村コーディネーター、林主査

2019年、国が日本語教育推進法を施行したのを受け、県内での日本語教育の計画策定、実施のために同グループがつくられました。

愛知県の外国人は国籍別ではベトナム人とブラジル人がそれぞれ2割弱を占め、フィリピンが14%。この三カ国で約半数を占めます。最近ではネパール、インドネシア、ミャンマー、スリランカなども増加率が高く、多様化が進んでいます。

1990年に出入国管理及び難民認定法(入管法)が改正され、人手不足解消のため、日系3世(海外在住の日本人とその子孫)までを「定住者」として受け入れるようになりました。この時に、愛知県に多い自動車産業の働き手として、日系のブラジル人、ペルー人が多く住むようになったそうです。

その後、2019年の入管法改正で在留資格「特定技能」が設けられ、介護のほか、外食業、宿泊業、農業、製造業など12業種で、外国人が日本で就労する道が開かれました。

県内の外国人を在留資格別に見ると、永住者(31%)、定住者(13%)、特別永住者(7%)、日本人の配偶者(4%)で約6割が永住傾向を持ち、これに加えて技能実習(12%)、特定技能実習(7%)、「技術・人文知識・国際業務」のビザによる就労者(8%)も日本語の習得機会を必要としています。

三つの壁を乗り越えるための取り組み

林さんは愛知県の多文化共生には「言葉の壁、制度の壁、心の壁」の三つがあると指摘しました。近年、外国人が日本のルールを守らないなどと指摘する動画が出回り、国民の間に不安や不満が広がっていますが、林さんは「外国人県民と暮らす中で生じる戸惑いや混乱、不信は、個人の性格や能力のせいにしないで、まずは文化の違いによるものだと考えることが必要です」と話しました。

愛知県では2008年に多文化共生推進プランを策定。現在は第4次(2023〜2027)が進行中です。プランは「コミュニケーション支援」「生活支援」「意識啓発と社会参画支援」「地域活性化の推進やグローバル化への対応」の4項目からなり、このうち「コミュニケーション支援」にあたる「日本語教育の充実」はすべての年代に対して行うことになっています。

様々な関係者が連携して日本語教育に取組む体制づくり

多文化共生推進室が取り組む日本語教育に関する主な事業は、次の四つです。

① 日本語がほとんどわからない大人の外国人県民を対象にした「初期日本語教室」のモデル事業、指導者養成講座

② 子ども向け地域日本語教室に対する支援

③ 産官連携による地域日本語教室支援活動

④ 多文化共生スピーチコンテスト

このうち②と③に民間が関わっています。2008年、地元経済団体・企業の協力により「日本語学習支援基金」が創設され、NPOなどが運営する地域日本語教室等に助成を行ってきました。2024年の実績は54教室、外国人学校4校です。この基金の第3次が2026年度で終了することから、県は次の支援策を検討中で、日本財団や樫の芽会など民間の助成金の一覧をホームページに掲載し、教室運営者に情報提供したい考えです。民間企業の支援は③の社員ボランティアによる日本語教室支援に軸足を移しつつあり、林さんは「民間の支援のフェーズがお金から人へと変わった。県としても経済団体と連携して、地元企業のボランティアと日本語教室のマッチングなどに力を入れています」と話しました。

地域日本語教室の役割と広がり

子どもの日本語教育は、学校(教育委員会)と地域の日本語教室がそれぞれ担っています。学校での日本語支援は、外国人児童・生徒の多い学校に日本語教育適応学級担当教員を加配し、取り出し授業などを行っています。放課後児童クラブでの日本語補習などを工夫して行っている地域もあるようです。

地域の日本語教室はNPOなどが中心となって開き、自治体の枠を超えて子どもたちが集っています。保護者に学校からのプリントの要点を伝えたり、持ち物や学校行事について案内したりと生活支援の側面もあります。外国にルーツのある子どもたちの「居場所」としても機能しています。

課題について松村さんは「日本語を教える人が足りない」としました。国は2024年4月施行の日本語教育機関認定法で、国家資格である「登録日本語教員」を新設し、日本語教員の母数を増やそうとしていますが、ニーズに追いついていない状況があるそうです。

愛知県県民文化局・多文化共生推進室イメージ写真5

現状は定年退職者のボランティアで支えられている団体が多く、後継者がいない、専門家がいないという難点もあります。

県は複数の自治体から生徒が通う日本語教室の送迎バスに補助金を付けています。2025年度は4団体に支給しました。保護者がシフト勤務で早朝や深夜に家にいないケースも多く、子どもを一人にしないようにバスでピックアップして学校や居場所に送迎しています。

松村さんは、NPOが設立したブラジル人学校で働いていたことがあります。その経験から「子どもは親の都合で連れてこられ、自分では選べない状況にある。だから支援が必要なんですね。ポルトガル語だけでもダメ、日本語だけでもダメという難しさがある。生活言語と学習言語の違いにも留意して教えなければいけません」と話しました。

課題に向き合って、子どもに希望を届ける

進路指導にも課題があります。親が大学進学を重視しておらず、16歳で就職する子もいます。「支援があれば進路が変わる余地がある子もいます。だからできるだけ多くの支援が必要です」と松村さん。2024年度に、外国人の子どものロールモデル発信事業として、県内に居住する外国人がキャリアや現在の仕事、日本語学習について語る動画8本を作成。外国人の子どもが動画に出演した“先輩”と直接対話する座談会も3回開催し、子どもが自らの進路を考えるきっかけを作りました。

愛知県県民文化局・多文化共生推進室イメージ写真6

県立高校の入試には外国人生徒選抜の枠がありますが、出願は来日から6年以内の子どもに限られ、国語、数学、英語の3教科をまとめた基礎的な内容の試験になります。定時制高校の外国人生徒枠は作文と面接のみの試験ですが、こうした簡易な試験では結局は授業についていけず、中退率の高さが課題になっています。「高校以降の子どもの支援も必要です。課題が薄く広く散在していて、その層が厚くなってきていますね」と松村さん。

今後の展望について林さんは、産官連携の取り組みの拡大を挙げました。

「人、物、場所の提供に重点を置く。たとえば、企業から文房具の寄附を募ったり、企業の会議室を日本語教室に使わせてもらうなどすることで、教室運営者の負担を減らしていきたい」

樫の芽会としましても、今回学んだことや新たな気づきを役員や運営スタッフにも共有させていただき、困難を抱えた子ども達が少しでも成長の機会を得られるよう、今後も継続して取り組んで参ります。

なお、本インタビューは、助成団体であるNPO法人シェイクハンズ様(愛知県犬山市)とのご縁により実現しました。代表の松本様には、深く御礼を申し上げます。

愛知県県民文化局・多文化共生推進室イメージ写真7

左から、樫の芽会・山北常務理事、村野選考委員長、愛知県・林主査、松村様

愛知県県民文化局県民生活部社会活動推進課多文化共生推進室

HP(該当ページ)
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/tabunka/0000005419.html
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